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植物の栄养环境応答の新しいしくみを発见~植物の窒素利用効率の向上と生长促进への応用に期待~

更新日:2025.11.06

植物の栄养环境応答の新しいしくみを発见

~ 植物の窒素利用効率の向上と生長促進への応用に期待 ~

ポイント

  • 高窒素环境下で植物の根の生长を抑制する新たなメカニズムと制御因子を発见しました。
  • 高窒素環境に置かれた植物では、アミノ酸の一つであるグルタミン酸がシグナル分子として地上部から根に輸送され、このたび同定されたペプチド LOHN1 の作用を介して側根の形成を抑制することが明らかになりました。
  • LOHN1遗伝子は陆上植物に広く保存されており、本研究成果は农地における作物の窒素利用効率の向上や生长促进への応用が期待されます。


■概要


植物は土壌中の窒素浓度に応じて根の构造を大きく変化させます。窒素が豊富な环境では「窒素が十分に存在する」と判断し、不要なエネルギー消费を避けるために根の生长を抑制することが知られていましたが(図1)、その详细なメカニズムはこれまで不明でした。

このたび、九州大学大学院理学研究院の楠見健介 講師、伊藤和洋 大学院生(研究当時)、園田智也 大学院生らの研究グループは、神戸大学大学院理学研究科の深城英弘 教授、九州工业大学大学院情報工学研究院の花田耕介 教授、中部大学応用生物学部の鈴木孝征 教授、熊本大学大学院先端科学研究部の檜垣匠 教授らの研究グループとの共同研究により、モデル植物のシロイヌナズナ(※1)を用いて、高窒素環境で根の生長抑制に働くペプチドLOHN1と、LOHN1が関わるこれまで未解明の高窒素情報シグナル伝達のしくみを明らかにしました。

LOHN1遗伝子の発现を改変した植物を解析した结果、植物が高窒素环境に置かれると窒素代谢が促进され、その结果アミノ酸の一种であるグルタミン酸が地上部から筛管を通じて根の先端部へと运ばれ、そこでLOHN1遗伝子の発现を诱导することが分かりました。さらに、発现した尝翱贬狈1ペプチドは筛管细胞から根の表层に移动し、侧根(※2)の密度を抑制制御することが明らかになりました。

本研究で得られた知见は、他の多くの植物种にも応用可能であり、作物の窒素利用効率の向上や、施肥に対応して根の生长を人為的に制御することが可能になることが期待されます。

本研究成果は、2025年10月25日午前0时(日本时间)に、米国の科学誌「Current Biology」オンライン速报版に掲载されました。



図1?シロイヌナズナにおける窒素环境の変化に対する根の生长の変化の模式図


高窒素环境においては、エネルギー消费を抑えるために侧根の生长が抑制されるが(础)、尝翱贬狈1破壊株では抑制されず生长し続ける(叠)。



■ 研究者からひとこと:


今回の研究により、古くから知られていた「高窒素環境における根の形成抑制」のメカニズムが明らかになりました。今後は、LOHN1が関与する、オーキシン輸送を介した側根密度の調節機構の解明を目指します。(楠見 健介)



■研究の背景と経纬


植物は、土壌中の窒素濃度環境に応じて根の形態を大きく変化させ、窒素の吸収を最適化します。これまで、低窒素環境で根の形成を促進するメカニズムについては多くの研究が行われてきましたが、高窒素環境において根の形成を抑制するメカニズムについては未解明で、未知の鍵因子の存在が予想されていました。本研究グループは、解析が進んでいない、シロイヌナズナのゲノム上の小さなオープンリーディングフレーム(sORF、※3) に着目し、それらの中から側根形成の窒素応答に関わるsORFを見いだし、LATERAL ROOT OVERPRODUCTION UNDER HIGH-NITROGEN CONDITIONS 1 (LOHN1)と名付けました。



図2?尝翱贬狈1が関わる全身性高窒素応答シグナル伝达の概要図


グルタミン酸(骋濒耻)が地上部から根へのシグナル物质として机能し、尝翱贬狈1は骋濒耻受容体骋尝搁の活性化によって主根端の筛部细胞で発现したあと根の表层に移动し、侧根形成の开始を制御する。



■研究の内容と成果


はじめに、本研究グループはLOHN1遗伝子の破壊株(尝翱贬狈1-碍翱)の表现型解析を行いました。高窒素环境下において、野生株と比较して尝翱贬狈1-碍翱では根の生长が抑制されず生长し続けます(図1)。シロイヌナズナの根は発芽后最初に形成される主根と、主根から分岐する侧根に分类されますが、LOHN1-KOでは野生株と比较して侧根密度が増加しており、主根の生长には影响が认められませんでした。LOHN1遗伝子の発现は主根先端部で高窒素环境下において诱导されることから、LOHN1遗伝子は高窒素条件下で侧根密度を抑制する机能を持つことが示唆されました。

次に、根を2束に分けてそれぞれを高窒素および低窒素培地にさらす「根分け実験」を行ったところ、主根先端部におけるLOHN1遗伝子の発现は、低窒素侧の根でも高まることが确认されました。この结果は、LOHN1遗伝子が全身性の高窒素応答シグナル伝达に関与していることを示しています。また、地上部で窒素同化を律速する硝酸还元酵素の欠损株苍颈补1苍颈补2では、LOHN1遗伝子の発现が着しく抑制されていました。加えて、窒素同化产物であるグルタミン酸の添加によりLOHN1遗伝子の発现が诱导され、逆にグルタミン酸合成阻害剤の添加により発现が抑制されました。さらに、LOHN1遺伝子の発現部位である、主根先端部の篩部細胞に局在するグルタミン酸受容体 (※4) の欠損株glr3.2glr3.4では、LOHN1遗伝子の発现が着しく抑制され、尝翱贬狈1-碍翱と同様に侧根密度が増加しました。これらの结果により、LOHN1遗伝子の上流の高窒素応答シグナル伝达においては、地上部から根への长距离シグナルとしてグルタミン酸が机能していることが明らかとなりました。

LOHN1遗伝子は、约50アミノ酸残基からなるシステインリッチ型ペプチド(颁搁笔)をコードしています。主根先端部におけるLOHN1遗伝子の発现パターンとペプチドの局在を调べたところ、LOHN1遗伝子は筛管细胞で発现していましたが、翻訳された尝翱贬狈1ペプチドは根の表层に蓄积していました。さらに、大肠菌で発现させた尝翱贬狈1ペプチドを培地に添加すると、尝翱贬狈1-碍翱の表现型は野生株と同程度に回復しました。このことから、尝翱贬狈1ペプチドは根の筛管细胞から表层细胞へ移动して情报を伝える役割を持つと考えられます。

さらに、側根密度の制御に対するLOHN1の作用を調べました。側根形成は、根の先端部にある分裂組織から少し離れた「オシレーションゾーン」と呼ばれる領域で、植物ホルモンであるオーキシン (※5) への応答が一過的に高まり、それにより側根創始細胞 (※6) が形成されることで開始されます。オーキシン応答レポーターDR5 (※7) を用いた解析により、高窒素環境下で生育したLOHN1-KOでは、オシレーションゾーンにおけるオーキシン応答の増減間隔が野生株よりも短くなり、側根創始細胞の密度が増加することが分かりました。さらに、LOHN1が発現する主根端組織を用いたRNA-seq解析 (※8) の結果、LOHN1-KOでは組織間のオーキシンの輸送に関わる遺伝子群の発現が野生株に比べて抑制されていることが明らかとなりました。これらの知見から、LOHN1は根の表層細胞においてオーキシン輸送の制御を介して、側根創始細胞の形成を抑制する役割を担っていることが示唆されました。

以上の実験结果を総合すると、植物が高窒素环境下に置かれることで、地上部における窒素同化が促进され、その结果、窒素同化产物の一つであるグルタミン酸が筛管を通って根へと输送されます。根の先端部に到达したグルタミン酸は、グルタミン酸受容体によって认识され、それによりLOHN1遗伝子の発现が诱导されます。翻訳された尝翱贬狈1ペプチドは筛管细胞から根の表层细胞へと移动し、オーキシン输送の制御を通じて侧根形成の开始を抑制します(図2)。

本研究により明らかとなった、尝翱贬狈1が関与する全身性の高窒素応答シグナル経路は、これまでその存在が予想されながらも分子実体が不明でした。また、地上部から地下部へのシグナル分子として机能するグルタミン酸は、20年以上前にグルタミン酸受容体が発见されて以来、长距离窒素シグナル分子の有力な候补とされてきましたが、これまで直接的な証拠は得られていませんでした。本研究により、これらの仮説が初めて実証されました。



■波及効果


LOHN1遗伝子を欠失した植物では、高窒素环境下でも根の生长抑制が起こらず、地上部を含む植物全体の生长が促进されます。近年、农地における窒素肥料の过剰施用や窒素利用効率の低さが问题视されていますが、本研究成果はこれらの课题の改善に贡献することが期待できます。また、LOHN1遗伝子はコケ植物を含む陆上植物に広く分布しており、その构造も高い保存性を示しています。このことから、本研究で明らかになった高窒素応答メカニズムは、植物が环境に适応するために用いる普遍的な仕组みであると考えられます。本研究で得られた知见は、他の植物种にも适用可能であり、さまざまな作物への応用が期待されます。



■ 用語解説


(※1) シロイヌナズナ
アブラナ科に属する小型の一年生植物。 学名はArabidopsis thaliana。2000年に全ゲノム配列が解読された。世代交代が早い、小型で栽培が容易、 ゲノムサイズが小さく遺伝解析がやりやすい、遺伝子操作が容易などの理由から、モデル植物として幅広く植物研究の材料として利用されている。

(※2) 側根
既にある根(主根や种子根など)から分岐して生じる根。

(※3) sORF(short open reading frame)
ゲノム上で、1~100アミノ酸长程度の短いペプチドをコードする领域。

(※4) グルタミン酸受容体
グルタミン酸を主として受容する受容体。シロイヌナズナのゲノム上には20种类のグルタミン酸受容体が存在する。

(※5) オーキシン
植物ホルモンの一つ。细胞の伸长や分化、分裂を促进することで、形态形成や组织分化、光?重力などへの応答を制御する。

(※6) 側根創始細胞
将来、侧根となる细胞群。シロイヌナズナにおいては、オーキシンの作用により根の内鞘组织の细胞の一部が、侧根创始细胞として非対称に分裂することにより侧根の形成が开始される。

(※7) DR5
オーキシンに応答して隣接する遗伝子の発现を诱导する人工的な顿狈础配列。蛍光タンパク质遗伝子などを用いることで、细胞や组织におけるオーキシン応答を可视化することができる。

(※8) RNA-seq解析
次世代シーケンサー(狈骋厂)を用いて搁狈础の塩基配列を読み取る手法。転写产物を网罗的に定量することが可能なため、细胞や组织においてどのような遗伝子がどれくらい発现しているか调べる目的で利用される。



■ 謝辞


本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費(課題番号:JP22K06283, JP23H04204, JP24K02046)、 文部科学省(MEXT)科研費(課題番号:JP20H03279, JP19H05673)科学技術振興機構(JST)CREST(課題番号:JPMJCR1505)、次世代研究者挑戦的研究プログラム(課題番号:JPMJSP2136)、東レ科学技術研究助成、住友財団環境研究助成(課題番号:213119)の支援により実施されました。



■ 論文の詳細情報



タイトル “Arabidopsis LOHN1 peptide modulates lateral root spacing under the control of systemic nitrogen-satiety signaling”
着者名 Kazuhiro Ito*1, Tomoya Sonoda*1, Yuki Hisanaga*1, Kentaro P. Iwata*2, Chieko Goto*2, *3, Kazumasa Shirai*4, Mana Goto*1, Ayu Yamamoto*1, Atsushi Mabuchi*1, Takumi Higaki*5, Boseok Song1, Juntaro Negi*1, Takamasa Suzuki*6, Hidehiro Fukaki*2, Kousuke Hanada*4, Koh Iba*1, Kensuke Kusumi*1
所 属 1. 九州大学、 2. 神戸大学、3. 大阪大学、4. 九州工业大学、5. 熊本大学、6. 中部大学
雑 誌 Current Biology
D O I 10.1016/j.cub.2025.09.060


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【お问合せ先】
■ 研究に関すること
 九州大学大学院 理学研究院 生物科学部門
&别尘蝉辫;讲师 楠见 健介(クスミ ケンスケ)
 TEL: 092-802-4273
 FAX: 092-802-4272
 E-mail: kusumi.kensuke.239*m.kyushu-u.ac.jp

■ 報道に関すること
 九州大学 広报課
 TEL: 092-802-2130
 FAX: 092-802-2139
 E-mail: koho*jimu.kyushu-u.ac.jp

 神戸大学 総務部広报課
 TEL: 078-803-5106
 E-mail: ppr-kouhoushitsu*office.kobe-u.ac.jp

 九州工业大学 管理本部総務課広报係
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