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青色の色素を持っていない絶灭危惧种ヒメオニソテツの叶が「青く见える」秘密を解明!

更新日:2025.05.14

青色の色素を持っていない絶灭危惧种ヒメオニソテツの叶が

「青く见える」秘密を解明!

本研究成果のポイント

  • ソテツ类の一种、ヒメオニソテツの叶が、「青色」に见える理由を解明しました。
  • 青色に見えるのは、葉の表層に存在する直径0.1マイクロメートルほどの微細なワックス結晶による「構造色 (※1)」と、叶緑素を多く持つことによる浓緑色の光合成组织が存在することによる光の散乱抑制との相乗効果であることがわかりました。
  • ヒメオニソテツが作り出すワックス结晶(※2)は、青色だけでなく紫外线も强く反射する特性を持つこともわかり、それらをヒントに新素材开発の一助になる期待もあります。

■ 概要


広島大学 大学院統合生命科学研究科 信澤 岳 助教と草場 信 教授、九州工业大学 大学院情報工学研究院 岡本 卓 教授、高知大学 教育研究部自然科学系農学部門 中野 道治 准教授は、南アフリカ原産のソテツ類の一種、ヒメオニソテツの葉が「青色」に見える理由を実験的手法と光の挙動のコンピューターシミュレーションを用いて科学的に説明することに成功しました。生物学と物理工学との異分野融合的研究の成果でもあります。同ソテツの葉表面のワックス結晶は、青色のみならず紫外線も強く反射する特性を持つこともわかり、生物模倣的アプローチ(※3)による素材开発の一助になる期待もあります。

研究成果は、英国の科学誌Journal of Experimental Botanyに2025年5月14日(日本時間)、掲載されました。



■ 論文情報


タイトル “Structural Coloration and Epicuticular Wax Properties of the Distinctive Glaucous Leaves of Encephalartos horridus”
着者名 信澤 岳(広島大学 大学院統合生命科学研究科、筆頭著者、責任著者)
岡本 卓(九州工业大学 大学院情報工学研究院)
中野 道治(高知大学 教育研究部自然科学系農学部門)
草場 信(広島大学 大学院統合生命科学研究科)
掲载誌 Journal of Experimental Botany
D O I 10.1093/jxb/eraf115

■ 背景


本研究で着目した南アフリカの乾燥地帯原産のヒメオニソテツ(Encephalartos horridus、下図)というソテツ類の一種は、特徴的な青色の葉を持つことで知られ、英語ではEastern Cape Blue Cycad(“東ケープ青ソテツ”の意味) とも呼ばれています。同種は乱獲 により絶滅危惧種(レッドリストEN)(※4)として记载されるとともに、ワシントン条约により国际取引が规制されるなど贵重な植物种です。美しい青色の叶は爱好家のみならず目を夺われるものがありますが、その一方で、特に青色の色素を持っているわけでもない同种の叶が「なぜ青色に见えるのか?」という素朴な疑问に対する科学的な答えは、これまでになされていませんでした。



上図:ヒメオニソテツ。隣に見える別のソテツ類(Dioon edule)の葉は一般的な植物同様に緑色に見える。また、中央部に見える新しい葉は、まだ青く見えない。


■ 研究成果


植物の地上部の表面は、表层脂质と呼ばれるバリア成分によってコーティングされており、乾燥をはじめとするさまざまな环境ストレスから守られています。さらに、植物种によっては结晶化した表层脂质である「ワックス结晶」を持ち、ヒメオニソテツ叶の表面にもワックス结晶が多量に存在しています。ヒメオニソテツのワックス结晶を指でかるくなぞって落とすと、青色が消えて浓い緑色が现れます(下図、黄色の矢头部分)。
また、叶の反射スペクトル(※5)を取得したところ、ワックス结晶があるときにだけ、紫外から青色光を中心とした强い反射を持つことがわかりました。したがって、青色に见える手がかりのひとつは、叶の表面に多量に分泌されてくるワックス结晶にあると考えられます。



ヒメオニソテツのワックス结晶について脂质分析を入念に行ったところ、苍辞苍补肠辞蝉补苍-10-辞濒(※6)を主体としていることがわかりました。ワックス结晶を构成する脂质分子の种类ごとに生じる结晶の形状は异なりますが、苍辞苍补肠辞蝉补苍-10-辞濒は直径0.1マイクロメートルほどの円柱状の结晶形状を取ることが知られている分子です。走査型电子顕微镜(※7)を用いた観察からも、ヒメオニソテツの持つワックス結晶は0.1 マイクロメートル前後の微細形状を持つことが確かめられました。したがって、青色はワックス結晶の形状による「構造色(※1)」として説明することができます。

ところが、ワックス結晶を壊さずに葉の表面のみをそっと剥がしとっても、青色に見えなくなってしまいます。 その一方で、その剥がし取った表面をもう一度濃い緑色の背景に密着させると、再び元の青色が現れます。ただし、薄い黄緑色の背景に密着させても、青色にはなりません。そこで、この現象をモンテカルロ?マルチレイヤー?シミュレーション(※8)を用いて検証したところ、青色に见えるのは、叶の表层に存在する直径0.1マイクロメートルほどの微细なワックス结晶による「构造色」が存在することに加えて、叶緑素を多く持つことによる浓緑色の光合成组织が下地として存在することによる「光の散乱抑制」との相乗効果であることがわかりました。


■ 今後の展開


今回「なぜヒメオニソテツの葉は青色に見えるのか?」という、素朴ですが誰も説明できていなかった疑問への答えを科学的に与える ことができました。生物学と物理工学分野の異分野共同研究の成果でもあり、生物模倣(バイオミメティクス)(※3)による新规素材开発を进める上での一助となる期待もあります。

また、ソテツ(裸子植物)の表层脂质は、多くの被子植物のものとは异なる分子组成を持っていることがはっきりとしました。今回の研究では青色に见える理由に加えて、同ソテツが多量の表层脂质を合成して分泌するのにかかわる遗伝子セットも特定できています。苍辞苍补肠辞蝉补苍-10-辞濒の生合成経路はまだ明らかになっていないため、研究を进めていきたいと考えています。


■ 参考資料

※1 構造色
色素がなくても物体の微细な构造によって生じる色のことです。例えば、モルフォ蝶の羽の青色やシャボン玉の虹色が挙げられます。光が物体の表面の极小构造と相互作用することで一部の色が强调され、特定の色として见えることになります。

※2 ワックス結晶
植物种によっては、表面に表层脂质(ワックス)が结晶化したものを持ちます。植物表面に拨水性を生じさせるなどの役割があります。

※3 生物模倣(バイオミメティクス)
生物が持つ优れた构造や机能をヒントに、新しい技术や製品を开発することを指します。
例えば、モルフォ蝶の羽が持つ微细なナノ构造に着想を得て、色素を使わずにナノ构造で色を作り出す技术が生まれました。この技术により、色が长持ちし、环境负担を削减できる新しい印刷方法が実现するなどの例があります。

※4 レッドリスト
国际自然保护连合(滨鲍颁狈)が作成する「レッドリスト」は、生物の絶灭リスクを评価したリストです。贰狈(贰苍诲补苍驳别谤别诲)はその中でも「危急种」とされるカテゴリで、野生での个体数が大幅に减少して絶灭の危険性が高いと判断された生物が分类されます。例えば贰狈にはマウンテンゴリラが含まれます。

※5 反射スペクトル
物体ごとにどの色の光(波长)を効率的に吸収?反射するかが异なります。测定対象に异なる波长の光を顺に照射し、どの波长の光をどのくらい反射するかを细かく调べることで、反射スペクトルが取得できます。

※6 nonacosan-10-ol
植物の表面に存在するワックス成分の一种であり、特にソテツ类など一部の植物において见られます。微细な结晶形状をつくることが知られている分子ですが、どのように合成されるかはまだわかっていません。

※7 走査型電子顕微鏡
电子を使って试料の表面を高倍率?高解像度で観察する装置です。

※8 モンテカルロ?マルチレイヤー?シミュレーション
(MCML: Monte Carlo Multi-Layer simulation)
光が层构造を持つ物质(皮肤など)に当たったとき、どのように反射?吸収されるかを计算する方法です。例えば、皮肤に化粧品を涂ったときの色の変化をパラメーターを変えてシミュレーションできます。本研究では植物の叶で利用し、青色がどのように生まれるかを20亿个の光子をコンピュータ上で追跡することで再现しました。


■ 補足事項

ヒメオニソテツは、株式会社サタケ 佐竹 利彦 博士より寄贈いただいた株を用いました。また、関連する研究助成は次のとおりです。科学研究費補助金:21K06231、24K09489;中辻創智社 研究助成金。



プレスリリース本文はこちら


【お问い合わせ】
&别尘蝉辫;広岛大学 大学院统合生命科学研究科 助教 信泽 岳
 TEL: 082-424-7548
 E-mail: nobusawa*hiroshima-u.ac.jp

 九州工业大学 大学院情報工学研究院 教授 岡本 卓
 E-mail: okamoto*phys.kyutech.ac.jp

&别尘蝉辫;(メールは*を蔼に変えてお送りください)


学长室より
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